建設コラムColumn
食品の安全性と品質保持が重要視される現代。冷凍食品の幅広い普及等もあり、ビジネスの世界で「冷蔵倉庫」はますます熱い視線を注がれる存在となっています。
しかし、いざ建築を計画するとなれば、大きなコストがかかる冷蔵倉庫は、慎重な検討が必要な建物です。本記事では、冷蔵倉庫建築を検討されている企業様に向けて、計画段階で押さえておくべき重要なポイントを解説いたします。
冷蔵倉庫とは?種類と概要
まず、「冷蔵倉庫」とは何で、似た場面で使われる「低温倉庫」や「冷凍倉庫」との違いは何でしょうか。建築費用についてはどのぐらいと考えればよいでしょう。そんな「冷蔵倉庫」の概要について、まず確認しておきましょう。
「冷凍倉庫」と 「冷蔵倉庫」
家庭用や小規模ビジネスで使う冷蔵倉庫には様々な規格のものがありますが、食品衛生法の「冷凍・冷蔵倉庫業」で使用する「冷蔵倉庫」は、倉庫業法という法律によって厳密に定義されています。ビジネスの世界で「冷蔵倉庫」といえば、これを指すことが多いでしょう。この法律によれば、冷蔵倉庫は「+10℃以下の低温で保管する施設」ですので、マイナス以下の温度で保管する冷凍倉庫もこの中に含まれます。
なお、「倉庫業法施行規則」では、冷蔵倉庫を保管温度によって「C(チルド)級」、「F(フローズン)級」といったクラスを作って区分しています。「冷凍倉庫」という言葉には厳密な定義ではありませんが、F級以下の温度で保管する倉庫を指して使うことが多い言葉となります。
「冷蔵倉庫」と「低温倉庫(定温倉庫)」の違い
「低温倉庫」(定温倉庫)は、通常「10℃~20℃」で温度管理される倉庫です。こちらは特に法律で定められている用語というわけではありません。冷蔵倉庫よりは高い温度帯ながら、低温での管理が必要となるものを保管する倉庫として、この言葉が用いられています。この温度帯は玄米等の穀物、ワインや化粧品、医薬品、チョコレートなどの保存に適しており、温度変化に敏感な製品の品質維持に重要な役割を果たします。
「冷蔵倉庫」の建設費用、価格
冷蔵設備や断熱性能が必須となる冷凍倉庫は、通常の倉庫と比べ、断熱性能等の建物に求められる機能も、必要な機械設備も格段に多くなります。求められる温度等が全く違うため単純には言えませんが、建設費用はどうしても通常の倉庫より高くなります。ご参考まで、倉庫建設の平均坪単価は、政府の着工統計2023年の実績では約54万円(e-Stat 建築着工統計調査)ですが、倍以上になる可能性は考えておいた方がよいでしょう。
建設資材の高騰も激しい昨今ですから、ご計画の際は建築の専門家への問い合わせのうえ、資金の見通しを立てることをお勧めします。
冷蔵倉庫に関連する主要な法律や制度
冷凍倉庫に関しては、倉庫業法の他、食品衛生法等通常の倉庫に比べて関連する法律が多い点も注意が必要です。近年、関連法の改正が多いため、この点もぜひチェックしておきましょう。
食品衛生法と倉庫業法
そもそも「倉庫業法」が適用される営業用の倉庫は、一般的な「倉庫」のイメージとはだいぶ異なり、厳しい基準が設けられた設備です。床や外壁の強度、防災や防火等建物の機能に基準があるほか、運営者も法的な欠格事由に該当しないことが求められ、営業には国土交通大臣の許可が必要です。その中でも、冷蔵倉庫は満たすべき基準が多い倉庫です。具体的には、冷蔵設備・温度計の設置のほか、倉庫内と外部との連絡のための通報機について規定があります。
(参考:倉庫業登録申請の倉庫業登録申請の手引き 国土交通省)
上でも述べた「倉庫業法施行規則」の冷蔵倉庫の温度区分が2024年の改正で、以前の7区分から以下の10区分に細分化されている点も注意してください。主に冷凍のしすぎによるエネルギーの無駄遣いを抑える趣旨の改正です。
旧区分
温区分 | 温度帯 |
C3 | -2℃超~+10℃以下 |
C2 | -10℃超~-2℃以下 |
C1 | -20℃超~-10℃以下 |
F1 | -30℃超~-20℃以下 |
F2 | -40℃超~-30℃以下 |
F3 | -50℃超~-40℃以下 |
F4 | -50℃以下 |
新区分
温区分 | 温度帯 |
C3 | -2℃超~+10℃以下 |
C2 | -10℃超~-2℃以下 |
C1 | -18℃超~-10℃以下 |
F1 | -24℃超~-18℃以下 |
F2 | -30℃超~-24℃以下 |
F3 | -35℃超~-30℃以下 |
SF1 | -40℃超~-35℃以下 |
SF2 | -45℃超~-40℃以下 |
SF3 | -50℃超~-45℃以下 |
SF4 | -50℃以下 |
国土交通省 「倉庫業法第三条の登録の基準等に関する告示」の改正について
冷蔵倉庫は「食品衛生法」とも関係が深い設備になります。こちらは2021年に改正があり、従来「食品の冷凍又は冷蔵業」として許可されていた業種が、「冷凍食品製造業」「複合型冷凍食品製造業」の2種と、届出のみでよい「冷凍・冷蔵倉庫業」に分かれました。併せて、業務用の飲食物を納める冷蔵倉庫すべてに倉庫業法の冷蔵倉庫としての適合を求める「食品衛生法 基準告示第2条第4号ニ」が削除されています。
(参照:国土交通省 総合政策局 食品衛生法の一部改正に伴う倉庫業法第3条の登録の基準等に関する告示の改正について)
これにより、「冷凍食品製造業」「複合型冷凍食品製造業」では、設備としての冷蔵倉庫の法規制は緩和され、食品衛生法の枠の中で食品に合わせた品質管理の機能が求められます。
一方、「冷凍・冷蔵倉庫業」としての冷蔵倉庫は、変わらず営業倉庫としての登録が必要です。法改正と同時に、HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理も義務化されました。
このように、食品衛生法と倉庫業法の冷蔵倉庫に関わる部分は、最近重要な改正が行われています。冷蔵倉庫需要のひっ迫も社会課題と認識されており、今後も動きがある可能性がありますので、建設をご検討の際は注意して最新の動向をご確認ください。
「冷蔵倉庫」に関連するその他の法律
冷蔵倉庫の建設にあたってはその他多くの関係法令があります。申請や届出が必要なものもありますので、専門家と協力して漏れなく進めましょう。
食品衛生法・倉庫業法以外での関連法令は、例えば以下のようなものがあります。
・建築基準法
都市計画区域内の新築は面積に関わらず建築確認が必要です
(防火・準防火地域外の10㎡以下の増築・改築・移転は建築確認不要)
都市計画区域外でも面積が100㎡以上等に該当する建物は建築確認が必要です
・消防法
規程に基づいた消防設備の設置等が求められます
・高圧ガス保安法
圧縮式冷凍機を使用している冷蔵倉庫は届出が必要となります
冷蔵倉庫の基本設計に必要な要素
通常にない低温環境の実現を求められる冷蔵倉庫には、計画や設計のうえで通常の倉庫と違った注意点が必要となります。
代表的な要素を以下にご紹介します。
適切な設備と機械の選定
冷蔵倉庫ではその性質上、低温を作り出し、低温に耐えられる特別な設備・機械の導入の検討が必要となります。温度帯にもよりますが、例えば、以下のようなものです。
・壁、扉の断熱設計
・冷蔵・冷凍設備
・ドッグシェルター
・低温対応フォークリフト
・氷点下対応コンピューター・制御機器
・冷気循環用ファンシステム
・デフロスト(霜取り)システム、湿度調整設備
機器の選定にあたっては、建設コストに注意が向きがちですが、今後何十年も使う設備ですから、できあがってからのランニングコストを抑える意識がとても大切になります。省エネルギーであること、低温環境下でも故障しないこと、使用や管理にできるだけ人手がかからないことなどをふまえ、設計・設備業者と相談していきましょう。
作業効率のよい動線
一般の倉庫でも、効率的な作業動線の設計は、生産性向上に直結する大切な要素です。更に、冷蔵倉庫では、低い温度下での作業は従業員の健康管理に直結しますから、短時間で作業を終えられる動線設計はとても重要になります。
以下ようなポイントを確認し、動線設計を行いましょう。
・ピッキング作業の効率化
・出庫頻度を配慮した商品配置
・搬入・搬出口の適切な配置
・余裕を持ったスペース確保
安全性の確保
冷蔵倉庫では、庫内に閉じ込められれば命にかかわる事態になります。庫内に外部との連絡が取れる通報機の設置は倉庫業法でも義務付けられていますが、様々な事態を想定し、庫内が確認できるカメラや停電時にも最低限の範囲が照らせる照明等の対策も併せて取っておくとよいでしょう。
また、通常の建築より断熱材を多く必要とする冷蔵倉庫では、火災が一気に拡大することがあります。スプリンクラーや防火シャッターなど火災に対する備えも充分に検討してください。
近年、食品を狙った盗難事件が増えていることなどから、防犯対策にも目を向けておきましょう。警報システムや防犯カメラといった防犯設備の導入が進んでいます。
冷蔵倉庫計画時にチェックしたいプラスα
冷蔵倉庫の計画にあたっては、以下の点もあわせてチェックしておくとよいでしょう。
検討したい無人化・自動化システム
人手不足が叫ばれる現代、作業環境として厳しい冷蔵倉庫は無人化や自動化を考えたいものです。新築・改築を考えているなら、先進的な自動化技術にもアンテナを張っておきましょう。
注目の自動化技術:
・自動倉庫システム(AS/RS):荷物を棚から入出庫装置にコンピューターで自動搬送
・AGV(無人搬送車)・AMR(自律移動ロボット):荷物を自動で所定の位置まで運送
・無人フォークリフト:冷凍環境対応の無人フォークリフトが登場
・倉庫管理システム(WMS)とAIの連携:作業データや在庫データの分析による最適化
超低温環境では、人体への影響も大きいため、作業員に長時間労働はさせられません。効率化だけでなく、安全対策、今後の人手不足対策等多くの点でのメリットが期待できます。
省エネルギーや環境対策
企業への環境対策開示の法整備が進み、エネルギーコストが上昇する昨今、省エネルギーや一歩進んだ環境への配慮も重要な経営課題となっています。できるだけ省エネルギーな冷蔵・冷凍設備の導入はもちろん、フロンガスを使わない、自然冷媒を使った冷蔵・冷凍設備を検討してみるのも一つです。
また、せっかくの機会ですから、エネルギーを作る方に目を向ける機会とするのもよいでしょう。太陽光発電システムを始め、風力・水力など立地に適した自然エネルギーで発電ができないか、ぜひ検討してください。発電・蓄電システムを備えることで、停電時への備えにもなります。
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冷蔵倉庫の建築計画は、法的要件の遵守から最新技術の活用まで、多角的な検討が必要な複雑なプロジェクト。難易度の高い設計・工事でも手掛けられる会社の選定が大切です。
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