建設コラムColumn
建築物や工作物の解体・改修工事において、石綿(アスベスト)による健康被害を防ぐため、事前調査の重要性がますます高まっています。石綿はかつて広く使用されてきましたが、その繊維を吸入することで中皮腫や肺がんなどの重篤な健康被害を引き起こすことが明らかになり、現在では製造・使用が全面的に禁止されています。しかし、過去に建設された建築物や工作物には今なお石綿含有建材が残されており、解体・改修工事の際に適切な対応を怠ると、作業員や周辺住民に深刻な健康リスクをもたらす可能性があります。
このような背景から、石綿障害予防規則(石綿則)は段階的に改正され、事前調査の義務化や有資格者による調査の必須化など、規制が強化されてきました。そして2026年1月には、工作物の事前調査においても専門資格者による実施が義務付けられる重要な改正が控えています。本コラムでは、これまでの石綿事前調査制度の変遷を振り返るとともに、2026年1月改正の内容と発注する企業様が押さえておきたいポイントについて詳しく解説します。
目次
なぜ石綿事前調査が重要なのか

石綿は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などに優れた特性を持つことから、1970年代から1990年代にかけて広く使用されてきました。特に製造業の工場やプラントでは、ボイラーの保温材、配管の断熱材、反応槽の内装材などで多用されています。
2006年には石綿の製造・使用が全面的に禁止されましたが、禁止以前に建設された施設には今なお石綿含有建材が残されている状況です。石綿が使われている建物だからといってすぐに是正処置しなければならないというわけではありませんが、解体・改修工事をご計画する際は事前調査、適法な対応が必要になります。適切な管理なしに行うと、作業員だけでなく、工場内で働く従業員や周辺住民にも健康リスクをもたらす可能性があります。
発注者である企業には、工事を安全に実施する責任があります。石綿飛散事故が発生すれば、工事の中断、追加費用の発生、企業イメージの低下、さらには法的責任を問われる可能性もあります。石綿の事前調査における知識や施工会社に確認することは、これらのリスクを回避するための第一歩なのです。
石綿事前調査制度の変遷

石綿による健康障害の予防対策を推進するため、平成17年(2005年)に石綿障害予防規則(石綿則)が制定され、建築物の解体等の作業における石綿ばく露防止対策等講じられてきました。しかし、義務付けられている事前調査などの措置が実施されていない事例が散見されたことから、令和2年(2020年)7月に石綿則が大幅に改正され、以降、段階的に下記に記載するような施行が順次されています。下記の法改正は主に施工会社に対する規制ですが、発注する企業様にもどういった規制があり、依頼する施工会社へ適法な対応がされているか確認することも計画をスムーズに進める上で重要となります。
令和3年(2021年)4月
すべての解体・改修工事において、規模や契約金額にかかわらず、石綿含有の有無を設計図書等の文書と目視で調査することが義務化されました。
令和4年(2022年)4月
一定規模以上の建築物や特定の工作物の解体・改修工事について、事前調査を実施し、結果を電子システムで届け出ることが義務化されました。
令和5年(2023年)10月
建築物の事前調査について、厚生労働大臣が定める講習を修了した「建築物石綿含有建材調査者」等の有資格者が行うことが義務化されました。これにより、専門的な知識と技能を持つ調査者による正確な事前調査が担保されることとなりました。
令和8年(2026年)1月改正:工作物への資格要件の拡大
これまで有資格者による事前調査が義務付けられていたのは主に建築物のみでしたが、令和8年(2026年)1月1日以降に着工する工事からは、一部の工作物の解体・改修工事においても資格者による事前調査が必須となります。
主な対象は以下になります。
・反応槽
・加熱炉
・ボイラー及び圧力容器
・焼却設備
・発電、配電、変電、送電設備
・配管設備
・貯蔵設備
※工作物とは、建築物以外のもので、土地、建築物または工作物に設置されているものを指します。
発注者として押さえるべき3つのポイント

前項の法改正により、発注する企業様にも影響が出てきます。下記のポイントを押さえておきましょう。
ポイント1:工事発注前に十分な準備期間を確保する
これまでの法改正により資格を持つ調査者による事前調査など工事着工までに複数のステップがあります。調査には通常、設備の規模や複雑さにもよりますが、数日から数週間を要します。さらに、石綿が検出された場合は、分析調査や除去計画の策定にさらに時間が必要です。
工事計画の初期段階から、十分な調査期間を見込んでスケジュールを立てていただくことが重要です。工事着工直前に調査を依頼されると、十分な調査ができず、後から石綿が発見されて工事が中断するリスクがあります。
ポイント2:施工業者の資格保有状況を確認する
2026年1月以降の工事では、建築物のみならず一部の工作物についても事前調査を行う者が適切な資格を保有していることが法的に求められます。初期段階で、施工業者の事前調査の実施体制が整っているか、石綿除去の工事実績があるかなど確認するとよいでしょう。
ポイント3:予算計画に事前調査費用を組み込む
石綿事前調査では、検体の採取・分析を行うのに費用が掛かります。調査の範囲(検体数)や対象設備の規模によって異なりますが、相応の費用を見込んでおくとよいでしょう。また、石綿が発見された場合は、除去費用や工期延長に伴う追加コストが発生します。
まとめ

これまで述べたように建築物や工作物の解体・改修工事において、石綿対策への規制が強化されてきており、今後も法整備は継続的に見直され、強化されていくことが予想されます。
建築物・工作物の解体や改修工事を行う際は、まず施工業者に相談して事前調査についても確認されるとよいでしょう。最後に注意点・ポイントをまとめます。
一定規模以上の解体・改修工事については、着工前に事前調査結果の報告を行うことが義務付けられています。
・2026年1月1日から一部の工作物においても有資格者に事前調査が必要
・石綿がない場合でも、「石綿なし」を報告することが必要
・石綿の使用が禁止された(2006年9月)以降の建築物等でも報告が必要
・報告対象外の小規模な工事でも原則事前調査の実施は必要
参考:石綿総合情報ポータルサイト「石綿対策は「皆さま」に関わる問題です(発注者・オーナー向け)より
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