2022.11.22
長野県の工業用地の需要と供給
今年発表された全国の基準地価は、全用途の平均で、前年比0.3%のプラスに転じ、「住宅地」「商業地」「工業地」全ての用途で地価は上昇しました。特に、工業地は、コロナ禍からの経済活動の回復傾向により、1.7%上昇し、5年連続で顕著な上昇がみられました。
2022年 地価調査 前年と比較した平均変動率
住宅地 | 商業地 | 工業地 | 全用途 | |
全 国 | 0.1% (▲0.5%) |
0.5% (▲0.5%) |
1.7% (0.8%) |
0.3% (▲0.4%) |
長野県 | ▲0.7% (▲0.9%) |
▲1.0% (▲1.3%) |
0.8% (▲0.2%) |
▲0.7% (▲1.0%) |
( )は昨年の変動率、▲はマイナス変動
長年の下落は縮小傾向 長野県「住宅地」「商業地」
長野県では、「住宅地」「商業地」が引き続き下落しましたが、長年の下落は縮小傾向にあり、地価の上昇地点のあった市町村は、住宅地が14市町村で前年と比べ4増加しました。同様に商業地は5増加し7市町村で、上昇地点が見られました。
住宅地では、最も上昇率の高い軽井沢で、テレワークを背景に移住が進み、また、別荘や二地域居住のニーズもあり、13.4%上昇しました。商業地は、最も上昇率の高かった白馬村で、今後の開発の期待値から13.3%上昇しました。
地価に影響を及ぼす人口および世帯数の減少により、利用度の低い地域の下落は今後も続き、一方、施策による人口増加や将来開発が見込まれる地域で上昇傾向があり、地価の二極化は更に進むと推測されます。
長野県の上昇率の高い地点 (住宅地)
地 点 | 変動率 | 地価(/㎡) | 所 在 | ||
1 | 軽井沢-6 | 13.4% | 76,000円 (67,000円) |
軽井沢町南原(別荘地) | |
2 | 軽井沢-1 | 12.5% | 126,000円 (112,000円) |
軽井沢町旧軽井沢(別荘地) | |
3 | 軽井沢-5 | 7.3% | 16,200円 (15,100円) |
軽井沢町追分 |
( )は前年の地価
長野県の上層率の高い地点 (商業地)
地 点 | 変動率 | 地価(/㎡) | 所 在 | ||
1 | 白馬5-2 | 13.3% | 31,500円 (27,800円) |
白馬村エコーランド | |
2 | 軽井沢 5-3 | 5.1% | 164,000円 (156,000円) |
軽井沢町軽井沢本通り | |
3 | 軽井沢 5-1 | 2.4% | 303,000円 (294,000円) |
軽井沢町軽井沢銀座商店街 |
( )は前年の地価
27年ぶりにプラス 長野県「工業地」
県内の工業地は、27年ぶりにプラスに転じ、前年比0.8%上昇しました。県内基準地価の工業地11地点のうち、6地点が上昇し、残りの5地点も昨年と同額で下落はありませんでした。コロナ禍でグローバルなサプライチェーンの動きが滞り、部品調達のための国内生産拠点化により製造業を中心に工業地の需要が高くあり、また、物流施設の新規ニーズが旺盛で道路交通網に隣接するエリアでの需要が継続しています。
工業地の適地が少ない長野市、松本市周辺では地価は上昇傾向にあると思われます。
長野県の基準地価 (工業地)
地 点 | 変動率 | 2022年(/㎡) | 2021年(/㎡) | |
1 | 長野 9-2 | 2.6% | 27,500円 | 26,800円 |
2 | 長野 9-1 | 2.0% | 20,700円 | 20,300円 |
3 | 千曲 9-1 | 1.1% | 18,100円 | 17,900円 |
4 | 塩尻 9-1 | 1.0% | 29,700円 | 29,400円 |
5 | 松本 9-1 | 1.0% | 20,900円 | 20,700円 |
6 | 東御 9-1 | 0.8% | 12,300円 | 12,200円 |
7 | 松本 9-2 | 0.0% | 35,900円 | 35,900円 |
8 | 茅野 9-1 | 0.0% | 25,500円 | 25,500円 |
9 | 諏訪 9-1 | 0.0% | 22,300円 | 22,300円 |
10 | 御代田 9-1 | 0.0% | 13,800円 | 13,800円 |
11 | 飯田 9-1 | 0.0% | 11,800円 | 11,800円 |
製造業の需要に応える工業地
製造業の需要に応える工業地は、現在、自治体による整地された工業団地の物件は少なく、分譲中の工業団地は地域によっては僅か数件に限られ、人口の多い長野市、松本市、上田市では工業団地の物件がない状況です。
バブル崩壊後、生産拠点が海外にシフトして県内の工業団地は販売が進まず、地方自治体の負担となった経緯があります。積極的な工業団地の開発が進められてこなかったことが物件が少ない要因の一つです。
工業用地の確保は、用地を選定し地権者と協議・合意して、農地法や都市計画法の規制の許認可手続きをとり、ようやく造成工事に着手できます。一般に2~3年以上かかります。そのため工場や倉庫を新設する場合、用地確保を早めに進める必要があります。
自治体による分譲中の工業団地
エリア | 市町村 | 物件数 | |
北 信 | 飯山市 | 4物件(2エリア) | |
東 信 | 小諸市 | 1物件 | |
佐久穂町 | 1物件 | ||
中 信 | 大町市 | 2物件 | |
南 信 | 辰野町 | 1物件 | |
伊那市 | 2物件 | ||
駒ヶ根市 | 2物件(2エリア) | ||
飯田市 | 4物件 | ||
豊丘村 | 1物件 |
円安による「国内生産拠点の推進」や、太平洋沿岸地域の震災懸念による「BCP対策」、さらに、リニア中央新幹線や中信・南信地域の高速道路網の整備など、地政学的な動きも加わり、県内の一部の地域で工業用地のニーズは高まっています。ポストコロナ・ウィズコロナのなか世界的なインフレによる経済の鈍化、先が見えない戦況など懸念される面はあるものの、県内の生産拠点の動きは継続し、将来を見据えた早期の対応が求められます。